はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第19章 宇宙の果て

海と陸には明確な境界があり、銀河にも明確な果てがあります。宇宙の果ては意味によります。あなたの考える宇宙の果てはどこでしょう。観測が可能な果て、到達が可能な果て、宇宙それ自体の果てもあります。私たちは宇宙の果てに迫れるでしょうか。

トップへ戻る

1 134億年かかった光

 1-1 宇宙の果ての銀河

2016年、ハップル宇宙望遠鏡が大熊座の方向の真宇宙を観測していました。すると不鮮明な光の点を捉えました。GNZ11と呼ばれる遥か彼方の銀河です。それは観測史上最も遠くにある銀河でした。でもそおうし座HL星れが宇宙の果てと言えるでしょうか。

GNZ11銀河の先には、空っぽの空間が存在するのでしょうか。簡単には答えられません。観測できる宇宙には限りがあるからです。その範囲を決定するのは、光の速度と宇宙の年齢です。宇宙の果てを考えるときにカギとなるのは光です。

光はものすごい速さですが無限ではありません。宇宙から光が届くには時間がかかります。1億5千万キロ離れた太陽から光が届くまでに8分以上かかりますが、恒星や銀河との距離を表す単位は光年で、光の速さで何年かかる距離かということです。

銀河の光は、数十万年数百万年数十億年かけて届きます。銀河GNZ11の光を調べると134億年かけて地球に届いたものだとわかりました。ハップル宇宙望遠鏡が捉えた銀河GNZ11は最も遠い最も初期の銀河でした。

遠くを見ることができれば宇宙の始まりに迫ることができます。NASAは最も過去を覗き込める望遠鏡を準備しています。ジェームスウェップ望遠鏡です。この望遠鏡が打ち上げられたら、恒星の誕生を捉えられるかもしれません。

なるべく遠くを見ることができれば、宇宙の初期が分かるかもしれません。でも、GNZ11銀河の先にはそれほど多くの銀河はないでしょう。宇宙が誕生したのは138億年前だからです。

銀河が誕生するまでの時間を考えると、光が届く138億年前までは観測可能です。距離が遠いと光は138億年たっても届きません。観測可能な宇宙には果てがあるということです。その範囲を決めているのは宇宙の年齢です。

GNZ11銀河が形成されたのは宇宙誕生から間もない、ビッグバンの4億年後です。それ以前に星はほとんどありませんでした。どの方向を見ても銀河も星もなかった高温の初期宇宙から届いた原子波が観測できます。それは殻のように私たちを覆っています。

トップへ戻る

 1-2 宇宙マイクロ波背景放射

私たちが観測できる最も遠いところからは宇宙誕生の波長が届いています。ビッグバンの残光がマイクロ波となって届いているのです。これは宇宙マイクロ波背景放射と呼ばれるもので、宇宙最古の光です。これが観測可能な宇宙の果てです。

観測可能な宇宙の果ての向こうに何があっても、光が届かないから見ることはできません。観測可能な宇宙とは、その名の通り私たちが見ることができる宇宙です。もし、GNZ11銀河に誰かが住んでいれば、観測可能な宇宙の範囲は私たちと違います。

GNZ11銀河から見れば、私たちの住んでいる地球は宇宙の果てになります。GNZ11銀河の光は134億年かけて届いたものでした。ところが、観測結果をもとにGNZ11銀河の実際の位置を割り出すと驚きの事実が分かります。眠れなくなる宇宙のはなし

GNZ11銀河の現在位置は320億光年彼方、想定される距離の三倍近くの距離でした。何物も光の速度を越えられないはずなのに、なぜ320億光年かなたの銀河が見えるのでしょう。宇宙の年齢を考えるならばそんなに遠くの光は届かないはずです。

あの銀河の光は、134億年の間になぜ320億光年も進めたのか。GNZ11銀河が信じられないほど遠くにあるのは、私たちの宇宙で起こっている奇妙な現象の性です。宇宙は膨張しています。だとすれば、宇宙の果てはいったいどこにあるのでしょう。

銀河の遠ざかる速度は測定可能です。多くの銀河が光の速度より早く遠ざかっていきます。138億年前に、あるエネルギーの一点に命が吹き込まれました。ビッグバンです。この瞬間に空間と空間が生まれます。以来宇宙は膨張を続けてきました。

その膨張の仕方が宇宙の果てを見つけにくくしています。遥か彼方の銀河は猛スピードで遠ざかっています。観測史上最も遠くの銀河GNZ11は誕生から134億年の間に、約320億光年も遠ざかりました。遠ざかる速さは光の速さを越えています。

銀河が遠ざかる速度は測定可能です。測ってみると、多くの銀河は物理の法則を破るかのように光の速度より早く遠ざかっています。何物も光の速度を超えることができないというのはウソなのです。空間そのものは特殊相対性理論に縛られることはありません。

トップへ戻る

 1-3 高速度不変の原理

特殊相対性理論には、当時の研究者たちをびっくりさせたポイントが2つあります。その一つは「高速度不変の原理」です。たとえば、時速100kmで走っている自動車は、隣の車線を時速80kmで走っている自動車から見ると、時速20km(100ー80=20)で自分を追い抜いていくように見えます。

反対方向にすれ違う場合は、逆に時速180km(100+80=180)で走っているように見えるでしょう。これが、ニュートンによる「速度の合成則」です。ところがアインシュタインによると、光にはこの法則が当てはまりません。

観測者がどんな速度で動いても、光の速度は足し算も引き算もされず、常に一定の速度で飛んでいきます。その速度は、真空中で秒速およそ3億km。正確には秒速299792458mで、「憎くなく2人寄ればいつもハッピー」という語呂合わせで覚えます。

仮に高速の80%の速度で飛ぶ宇宙船から見ても、光がそれより遅く見えることはありません。止まっている人が見るのと同じ秒速3億mで宇宙船を追い抜いていくのです。しかし、止まっている人からも動いている人からも同じ速度に見えたのでは、いろいろなことに辻褄が合いません。

それは、道端で立ち止まっている人からも、動いている自動車からも、同じ自動車が時速100kmで走っているように見えることを想像すれば、なんとなくわかるでしょう。それでも、何がどうなっているのかわからず、困ってしまいます。

そこでアインシュタインは、高速に近づいた物体では時間が遅れたり空間が縮んだりするのだと考えました。いまの自動車の例なら、同じ向きに走る自動車の中では時間が遅く進むので、同じ自動車が100km進むまで、立ち止まってみている人よりも時間がかかる、これなら辻褄が合います

急にこんな話をされても、頭が混乱してよくわからないかも知れませんが、とりあえず「そういうものか」と思ってください。ここで一番重要なのは「時間や空間は不変ではない」ということです。

それまで、変化すると思われていた光速が一定になった代わりに、それまで不変だと思われていた時間や空間は不変ではないということを考えたところが、アインシュタインの天才的なところだったのです。

特殊相対性理論のはもうひとつ、驚くことが書かれていました。こちらはほんの短い方程式で表すことができます。おそらく世界でいちばん有名な方程式ですから、見たことのある人も多いでしょう。「E=mc2」です。

この「E」はエネルギー、「m」は質量、「c」は先ほど出てきた光速のことです。エネルギーの大きさは、質量に光速を2回かけた値に等しい。これが何を意味しているか、分かるでしょうか。

トップへ戻る

 1-4 ハップルキューの外側

特殊相対性理論が当てはまるのは物体だけ、空間はどんな速さでも膨張できます。この膨張によって、観測可能な宇宙はいまやあらゆる方向に膨張して、460億光年まで広がりました。直径920億光年の宇宙、それは今も広がり続けています。

もし、観測可能な宇宙の果てまでの旅を試みれば、奇妙な体験をすることになります。太陽系を離れ銀河系を抜け、銀河間航行をしていると周囲の様子がだんだんおかしくなってきます。いつのまにか銀河が遠ざかるようになってきます。

銀河が遠ざかる速度は100万光年進むごとに秒速21キロずつ加速し、宇宙船をどんなに加速しても銀河は遠ざかるばかりです。短距離走を考えて下さい。トラックを走る選手にはゴールが見えています。ところが、そのゴールが遠ざかっていくとしたら。

もし、その遠ざかる速さが選手の誰よりも早いとしたら、誰一人ゴールにたどり着くことはできません。宇宙ではそういうことが起きているのです。あるラインに達すると、銀河は光の速度よりも早い速度で遠ざかっていくので追いつくことはできません。

このラインをハップルキューと呼びます。観測可能の銀河の97%はハップルキューの外側にあり、到達することは不可能です。GNZ11銀河も同様です。ハップルキューの外側は私たちが永遠にたどり着けない領域なのです。

宇宙の膨張にはさらに驚くような秘密が隠されていました。20年ほど前に宇宙の膨張は加速していることが発見されました。それまでは誰もが宇宙の膨張は減速していると思っていました。宇宙は減速どころか加速していたのです。

天文学者達は謎のエネルギーが働いていると考え、ダークエネルギーと名付けました。それは宇宙を押し広げ膨張を加速させている仮想的なエネルギーです。ダークエネルギーの起源や本当の性質は謎に包まれています。

ダークエネルギーの働きで、観測可能な宇宙の果て、宇宙の地平線を越える銀河は増える一方です。こうした銀河は私たちの視界から永遠に失われます。今は見えても、数百万年たてば、見えなくなってしまう銀河があります。

トップへ戻る

2 光よりも早い膨張

 2-1 宇宙の直径は920億光年

見えなくなる銀河は次第に増え続け、あと1兆年かそこれで1つも見えなくなるでしょう。すべてが観測可能な宇宙の範囲を超えてしまうからです。観測可能な宇宙には何兆個もの銀河があります。観測可能な宇宙の直径は920億光年です。

これが宇宙全体の大きさではありません。観測可能な宇宙の外側はどのようになっているのか知る由もありません。観測可能な範囲を超えているからです。そこには観測可能な宇宙と同一の宇宙が広がっているだけという説もあります。

遠いから見えないだけで、現在と同じような宇宙が続いていると思われます。しかし、もっと桁違いの遠くまで同じと言えるのでしょうか。ここで再び宇宙の膨張に戻ります。膨張と言っても、特別な瞬間に起こった膨張です。

宇宙が誕生した瞬間です。宇宙はとてつもない早やさで膨張しました。インフレーションと呼ばれます。宇宙は光の何倍もの速さで膨張したのです。インフレーションこそ、宇宙の構造を決めた瞬間です。眠れなくなる宇宙のはなし

その時私たち宇宙の物理定数が決まりました。それに基づいて、物質や光、時空が生まれます。しかし、観測可能な宇宙を大きく超えたところには、インフレーションが止まっていない領域があるという説もありますが、実際はどうか知る由もありません。

より大きな宇宙ではずっと光の速度を超えるインフレーションが続いています。そして所々インフレーションが止まり普通の速度で膨張するようになるという説です。インフレーションが止まって宇宙ができたところもあればもっと続いているところもあるのです。

どこかでインフレーションがが止まれば、別の宇宙が生まれることになります。インフレーションの激しいプロセスはそれぞれの宇宙にどんな影響を与えるのかわかりません。すると物理の法則も宇宙ごとに異なってくるはずです。

インフレーション理論は、異なる物理法則を持つたくさんの宇宙のパッチワークができることを予言しています。超巨大な構造があってそこに異なる物理法則を持つドメインができる。それが別々の宇宙になるのです。

トップへ戻る

 2-2 ドメインウオール

それぞれのドメイン(位相的欠陥)には境界があります。地球にも似たような境界があります。同じ物質でも状態が違えば、間にドメインウオール(位相的欠陥の壁)ができます。例えば北極に住む魚が氷山に近づけば、そこにはドメインウオールがあります。

魚は水の中に存在しますが、凍った水のなかでは存在できません。同じような水でも、凍っているか液体かでまったく異なったドメインになりうるのです。同じように私たちが生きられる宇宙もあれば、近づいてはいけない宇宙もあるのです。

あえてドメインウオールを越えれば過酷な運命が待っています。ドメインウオールを越えたとたん、物理の法則は激変します。次元も変わるかもしれません。異なる宇宙に入り込んだら一巻の終わりです。

私たちの体はこの宇宙の物理法則に従って機能しているからです。他の宇宙に入った瞬間に魔法のように消えるかもしれません。宇宙の果てを私たちの物理法則が通用する境界とすれば、ドメインウオールは事実上宇宙の果てです。

しかし、これは理論上の話にすぎません。宇宙の本当の大きさや形を知りたければ、分かりやすい手がかりを探さなければなりません。宇宙の大きさを知るには、まず宇宙の形を知らなければなりません。そのためには宇宙の曲がり具合を知らなければなりません。

もし、曲率がプラスの値だったら閉じた宇宙です。宇宙がどんなに広大だとしても、どこかから出発して一つの方向へひたすら進めば元の位置に戻ってきます。もし曲率がゼロだったら、その宇宙は平たんで無限に広がっているということです。

どこまで進んでも元の位置に戻ってくることはありません。何かの形を知りたいとき、普通は遠くから全体を眺めますが宇宙の場合はそれができません。ですから、全体の形や大きさを知りたいと思ったら頭を使うことです。

何かの大きさや形を調べるときには物差しが必要です。壮大な宇宙を測るのに使えるのは、バリオン音響振動という物差しです。バリオン音響振動とは、ビッグバンの残光宇宙マイクロ波背景放射に等間隔に刻まれたさざ波を指します。

トップへ戻る

 2-3 バリオン音響振動

等間隔に刻まれたさざ波を使えば、宇宙の距離や曲率も測ることができるのです。この物差しを使って宇宙の形を調べてみると、宇宙はほぼ平坦だということが分かりました。宇宙が平坦なら、私たちは宇宙のどこまでも進んでいくことができます。

そこに果てはありません。平坦な宇宙は無限に続いていると解釈できるのです。無限というのは概念上の問題です。無限ということは私たちが特別な存在ではないということを示唆しています。知的生命は私たち以外にも必ずいることになります。

宇宙が無限大であれば無限の銀河があり、生命のある銀河もない銀河も無限にあることになります。地球で生命が誕生したのですから、どこかの惑星にも生命が誕生しているはずです。宇宙が無限なら誕生する生命の形も無限です。

果てのない無限大の宇宙、そこにはあるはずのないことが起こってしまうのです。私たちが住んでいる銀河系太陽系地球という惑星、こうしたすべての条件がそろう確率はおそらくわずかです。宇宙が無限大なら、まったく同じものがそろう確率があるはずです。

つまり宇宙のどこかには、私たちが住んでいると同じ銀河系や太陽系があって、同じ地球があるということです。そこには同じ人間が住んでいます。別のあなた別の私が。その世界には間違いなく私がいます。しかもそんな世界が無限にあるのです。

このような話を信じられないかもしれません。無限に広がる宇宙を仮定するとそういうことになるのです。果てがないのなら、どこに向かって膨張していくのでしょう。そして、膨張はどこから始まったのでしょうか。その時、果てはあったのでしょうか。

答はたった一つ、「そんなことを聞いても仕方がない」です。私たちの宇宙は膨張しているので、何に向かってと聞く意味はないのです。無限の宇宙でなにが起こっているかを理解するには、ビッグバンに戻って考える必要があります。

ビッグバンというのは空間の中のどこかで起こった爆発ではありません。ビッグバン以前には空間がなかったのです。空間はビッグバンの中にあったのです。ビッグバンは空間そのものの爆発であったということです。

トップへ戻る

3 宇宙は有限か無限か

 3-1 宇宙誕生の究極理論

人類は20世紀になってついに、宇宙の成り立ちを科学的に説明する方法を手にしました。ビッグバン宇宙論です。ビッグバン宇宙論は宇宙が膨張することを示す相対性理論を土台としています。

ハップルによる宇宙膨張の発見と、ペンジアスとウィルソンによる宇宙背景放射の発見という2つの観測事実が、その正しさを裏打ちしています。この広大な漆黒の宇宙が、かっては超高温の小さな火の玉だっだというのは、まさに事実は小説よりも奇です。

宇宙背景放射は、かって超高温だった宇宙が放っていた光が、その後の宇宙膨張によって波長が引き延ばされ、電波の形で現在の宇宙に満ちているものです。この宇宙背景放射の強さを調べると、かっての宇宙の温度や密度が分かります。

宇宙背景放射の元となる光が生まれたとき、宇宙の大きさは現在の1千分の1程度だったことが理論的にわかっています。ミクロの卵として生まれた宇宙が、現在の1千分の1の大きさまで成長するのに30万年ほどかかりました。

宇宙を一様にするには、かき混ぜる必要があります。物質や熱が、密度や温度の高いところから低いところに移って初めて、宇宙全体が均一になります。でも、物質や熱の移動は、瞬間的には行われません。

なぜなら宇宙では、どんんものも光以上の速さで移動することはできないからです。物質や熱が移動して宇宙全体が均一になるには、それなりの時間が必要です。かなり大きくなっていた宇宙全体を均一にするには、39万年では時間が足りないのです。

北欧理論物理学研究所の佐藤勝彦客員教授は、ご自身の「力の統一理論」とアインシュタインの相対性理論を組み合わせると、宇宙の始まりについて大変面白いシナリオが描けることに気付きました

そのシナリオは「宇宙は生まれた直後、倍々ゲームのように急激に大きくなり、この急膨張が終わるときに大量の熱が発生して、「火の玉宇宙になる」というものです。

トップへ戻る

 3-2 インフレーション理論

この急膨張によって宇宙は一気に何十桁も大きくなり、素粒子のように小さかった宇宙がマクロサイズの宇宙に成長できました。この理論はインフレーション理論と呼ばれています。インフレーション理論は、従来のビッグバン理論の多くの問題点を解決しました。

生まれて間もない宇宙を、すさまじい勢いで膨張させた力の正体は真空です。つまりからっぽの空間が持つエネルギーが反発力となり、宇宙空間という自分自身を急膨張させたのです。この世に完全なる「無」はないのです。

真空が持つエネルギーを説明できるのは、現代物理学の大きな柱となっている量子論です。量子論は20世紀初めに、相対性理論とほぼ同時期に幾人もの天才的な科学者の手によって築かれました。

パソコンや携帯電話など、現代の私たちの生活を支えるハイテク製品の心臓部はLSIなどの半導体部品でできています。この半導体部品の原理は量子論の上に成り立っているので、私たちは知らぬ間に日々量子論の恩恵にあずかっているのです。

最初の小さな宇宙は、大きさゼロ、エネルギーゼロの「無」の状態で、生成と消滅を繰り返していました。それがある時、トンネル効果により究極の微粒子である素粒子よりもはるかに小さな、超ミクロの大きさを持つ存在としてこの世にポロッと出現します。これが宇宙の誕生の瞬間です。

生まれてすぐに宇宙は真空が持つエネルギーによって、一瞬のうちに何十桁も大きくなるという急膨張(インフレーション膨張)をします。そして相転移という現象を起こしてエネルギーがほぼゼロになり、急膨張は止まります。

小さな宇宙は相転移で膨大な熱エネルギーが解放さて、そのために宇宙は超高温に熱せられて「火の玉」となりました。その後は、緩やかな膨張に転じます。38万年で宇宙の大きさは現在の千分の1ほどとなり、電子が原子核に引き付けられて原子を構成するようになり、光がまっすぐ進めるようになりました。

雲に覆われていた天が腫れて、太陽の光が降り注ぐ状態と同じなので、宇宙の晴れ上がりと呼んでいます。この直進できるようにン去った光が、宇宙背景放射の元となった光なのです。

その後の宇宙の中では、水素を主成分とした薄いガスが重力によって少しずつ集まり、圧縮されて次第に密度を上げていきます。温度が千万k位になると核融合反応だ起きて恒星が誕生します。最初の星が生まれたのは、宇宙が誕生して約2億年後のことだと考えられています。

トップへ戻る

 3-3 ビッグクランチ

宇宙はビッグバンで限りなく小さな一点から大きくなったとされています。けれども、有限のものが無限になれるのでしょうか。もし宇宙が無限だというなら、ビッグバンの時も無限だったはずではないかと混乱します。そこでこう考えます。

現在の果てのない宇宙では、銀河同士の距離は遠く離れています。でも、銀河同士の距離は今の半分だったころもありました。それでも宇宙に果てががなかったはずです。つまり空間には最初から果てがなかったともいえるのです。宇宙論の基本と仕組み

ビッグバンは特定の一か所で起こったわけではありません。すべての空間がビッグバンの現場だったのです。無限の宇宙には無限の可能性が存在します。そこには空間の果てはありません。しかし、宇宙が終わるときに分かるというその果てとは。

私たちが住む宇宙は、無限の広がりを持ちさらに膨張し続けています。空間に果てはありませんが、別の種類の果てならあるかもしれません。時間の果てです。宇宙は380億年前に始まりました。そこに時間起点があるのなら、どこかに終点もあるのでしょうか。

私たちが知る限りビッグバンは宇宙の始まりです。ということは過去には果てがあるということですから、未来にも果てがあるということなります。かっては、時間には悲劇的な終点があると思われていました。宇宙のすべてと共に終わる瞬間が来ると。

宇宙がビックバンで始まって膨張しているのなら、普通はこう考えます。いつか膨張が止まって収縮し始め一点に戻るはずだ。これをビッグクランチと呼びます。宇宙がビッグクランチで終わるとしたら惑星や恒星がお互いに衝突し、銀河同士も衝突します。

宇宙に存在するものすべてが次々と衝突合体して一つの特異点に収束します。もし、この説が正しければ、時間には起点と終点という果てがあることになります。この宇宙が膨張し収縮するものであるなら、ふたつの果てが存在します。

宇宙が収縮に転じると考えられたのは重力の性で、無数の銀河の間には重力が働いています。いずれ膨張の勢いより重力の力が勝り収縮すると思われていました。膨張を加速すダークエネルギーの存在が分かり、永遠に膨張していくと考えられるようになりました。

トップへ戻る

 3-4 ダークエネルギー

これはさらに奇妙なことになる可能性もあります。宇宙は膨張と収縮を繰り返すという説です。ビッグバンに始まりビッグクランチで終わるということを永遠に繰り返すということになります。このような宇宙を振動宇宙と呼びます。

膨張と収縮の間で、永遠に振動しているような宇宙です。前の宇宙が終わると新たな宇宙が再生するのです。けれども、最新の観測によれば、どうやらビッグクランチは起こりそうもありません。またしてもカギとなるのはダークエネルギーです。

ダークエネルギーと呼ばれているのは、そのエネルギーの正体がダーク、すなわちわからないからです。この正体を突き止めない限り宇宙の運命は分かりません。膨張し続けるのか収縮するのか、それとも。

最近の観測で宇宙はダークエネルギーに満ちています。ビッグクランチが起きるにはダークエネルギーの性質が変わらなければなりません。空間を膨張させる力がどこかで変わらなければならないのです。でも、突然膨張が止まって宇宙が収縮するとは思えません。

ビッグクランチが起らなければ時間に未来の果てはありません。ダークエネルギーによって宇宙の膨張はますます加速しています。ダークエネルギーが消えることはないと考えられるので、宇宙はこれからも永遠に膨張し続けていきます。

空間と同様時間にも果てはないようです。生命にとっては想の方がよさそうに思えますがそうではありません。ダークエネルギーは宇宙の膨張を永遠に加速させていくようですが、その先に待ち受けている運命はビッグチルという恐ろしい未来です。

宇宙はひたすら冷えていき、すべてはお互いから離れていきます。これが永遠に続くと空間的にも時間的にも、気が滅入るような結末になってきます。宇宙の熱的死と呼ばれる状態です。天から星が消えていき、最後に残された星が消えると暗黒の状態になります。

何もない、真っ暗闇の冷え切った宇宙、そこでは永遠に時間が進み続けます。宇宙は永遠の膨張に耐えるしかありません。もし、時間に果てがないとしたらこれは避けようもない運命なのです。しかし、宇宙には別の意味の果てがあるかもしれません。

トップへ戻る

 3-5 事象の地平面

その果ては、宇宙の端ではなく中にあります。宇宙の果てに行きたかったら近くのブラックホールに飛び込めばいいのです。果てを越えられます。この果てを越えたら二度と戻れません。宇宙の果てを考えるとき、ブラックホールは非常に興味ぶかい存在です。

ブラックホールの中と外を分けるこの果ては、事象の地平面と呼ばれます。事象の地平面を越えて中へ入ったら、とてつもない重力に引っ張られます。光ですらそこから脱出できません。そこには歴然とした果てがあるわけです。

と言っても目に見える壁が存在するわけではありません。事象の地平面は宇宙の中にある果てですが、実際に行っても何もありません。ただ通り抜けるだけです。そこにあるのは宇宙の異なる領域を分ける概念上の境界です。

事象の地平面を越えたらそれまでいた宇宙から分離され二度と戻ることはできません。そこは私たちの宇宙の外なのです。私たちの宇宙から完全に切り離された別の宇宙にいることになります。ですから、事象の地平面は宇宙の果てと言えるのです。

ブラックホールの中を落ちていった先には特異点があります。物理の法則が通用しなくなる場所です。特異点には想像を超えるような可能性が隠されているかもしれません。ブラックホールの周辺の時空の配置によっては、理論上私たちの宇宙と鏡写しのような並行宇宙が存在することになります。

そこへ抜け出すことも可能です。ブラックホールは私たちの宇宙の果てにもなれば、別の宇宙への入り口にもなるのです。しかし、実際に事象の地平面を越えることはあまりにも無謀です。結局私たちはどの果てにも近づくことはできません。

トップへ戻る

参考資料:眠れなくなる宇宙のはなし(佐藤勝彦、宝島社)、宇宙はなぜこんないうまくできているのか(村山斉、集英社)、宇宙論の基本と仕組み(竹内薫、秀和システム)、BS12ディスカバリー傑作選「解明宇宙の仕組み」など。